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2016年3月7日月曜日

経営戦略論 / Corporate Strategy

Anne Marie Knott教授の人気授業。

彼女の論文は、ハーバードビジネスレビューにも寄稿されている。
たまたま日本語版のHBRを持っていたので、見せてみたら、喜んで勢い余ってサインまでしてくれた気さくな先生。

Corporate Strategyでは、「現状の経営資源を取捨選択、最適化、再構築しながら、より魅力的なマーケットにおいて企業価値を高めていくためにはどうすればいいか」というテーマを扱う。本講義では、When Getting in(進出), When Getting out(撤退), Leveraging Resources, New Product Development, Unrelated Diversification, Vertical Integration, Geographic Expansionという項目(企業が直面する意思決定)を通じて、上記のテーマについて学ぶ。
  • When Getting in: 新しい市場に進出する上での検討ポイントは、以下の通りである。「新市場にて得られる期待収益、既存市場において今後得られる期待収益、既存の経営資源を新市場に活用出来るのか。また、新たにリソースを確保するとしたら内部開発をした方が良いか、もしくは外部から獲得した方が良いか、またそのコストはどうか。どのタイミングで進出するのがベストか」等。また、先行者メリットに加えて先行者デメリットについても検討すべきである。先行者のデメリットとしては、新市場が故に、顧客に対する理解が浅い為、提供するサービスの質が低くなりReputationが下がる可能性がある、また、技術が一番先に陳腐化するリスクがある、などが考えられる。
  • When Getting out: 撤退の意思決定が最も難しいという。ある統計によれば(Guler, 2007)、ベンチャーキャピタルが最適なタイミングで撤退を意思決定していれば、実際よりも3倍の利益を確保する事が出来たという。 不確実性が合理的な意思決定を遅らせると指摘されている。この問題に対する有効な解決策としては、想定されるあらゆるオプションについて価値を試算することである(=リアルオプションバリュエーション)。しかし、一般的には、的確にオプションバリューを試算出来たとしても、企業や経営者は心理的にUpsideやPositiveな情報を高く評価してしまう傾向がある為、対応が遅れてしまう。衰退している産業においては、以下の様な兆候が見られる。供給過多、技術革新の余地の少なさ、競合他社の減少、工場などの経営資源の老朽化、激しい価格競争などだ。一方、企業内部に目を移せば、経営資源には制約的資源(労働力、工場、機械など)と非制約資源(ブランド、R&D、ナレッジなど)の2種類があり、制約的資源については年を重ねる毎に価値が減少していく。撤退という意思決定を行う場合には、如何にこれらの資源を最適に活用するかという視点で考える必要がある。
  • Leveraging Resources: 企業買収を実施した後、自社の既存経営資源を効果的に活用出来るかが、シナジー創出の成否を分ける。ナレッジやR&Dなどの非制約的資源に比べて、制約的資源は他の企業への適用が難しい。また、一般的には、買収した企業との経営のスコープが一致していなければ、既存経営資源の活用は難しい。また、一般的には買収する事業が既存事業とある程度の関連性があった方がシナジーを生みやすいと言われているが、高い関連性が、常にポジティブに働くとは限らない。ネガティブな作用の一例としては、カニバリズムの発生であり、収益機会を買収した企業とともに取り合ってしまうことがある。一方で、関連性の低い事業を買収することのメリットもある。それは、学習効果である。新しい顧客セグメントの研究と、未開の地におけるビジネスに関する情報等が得られる為とされている。
  • New Product Development:この項目においては、スウェーデンのSchibsted社という企業を事例として取り上げた。同社は元々新聞事業をメインに行っていたが、現在はインターネット関連事業がメインになっている。国内における圧倒的なシェアに安住せずに、早い段階からインターネット事業への方向転換を行ったことが成功の要因とされているが、それが実現出来たポイントは3点ある。(1)高いコミットメント:Schibsted社が新聞事業の衰退を予見して動き出したのは90年代中盤。90年代後半にかけて漸くインターネット関連の事業化の目処が経ってきた所で、2000年代初頭にはドットコムバブルが弾ける。ネガティブな事業環境になったとしてもコミットメントを緩めず事業化を進めた。また、オーナー一族の持ち株比率が高く、外部投資家の短期的な視点からのプレッシャーをうけにくかったということも奏功した。(2)新規事業部門の本体との分離:伝統的な新聞事業においては、ジャーナリストが良質な記事を書き、それをより多くの顧客(読者)に送り届ける事が重要である(ビジネスフロー:企業から顧客)。一方で、インターネット事業においては、いかに顧客の関心や注目を集め、派生するサービスに繋げていくかが重要である(フロー:顧客から企業)。ビジネスフローのベクトルが正反対となる状況において、既存事業の論理から切り離すことが得策と判断して、新規事業部門を本体から切り離した。(3)内部競争の強化:切り離したいくつかの新規事業部門同士の競争を活性化させた。新規事業の立ち上げは、高いリスクを伴う。技術、需要、競合他社の参入に関する不確実性を伴うからだ。Schibsted社は、上記で述べたポイントを実行する事でリスクをミニマイズしつつインターネット企業への転身を果たしたといえる。
  • Unrelated Diversification: 経営資源を活用するという観点においては、なるべく関連性が高い事業を買収することが、基本的には有効だと述べたが、マークスペンサーの事例に加えて、関係性が低い事業を買収する事で、成長している企業がある。Danaher社は、プロセスエンジニアリングなどに強みを持ち、業績が落ち込んでいるメーカ企業を買収した後、被買収企業に対して、リストラクチャリングを中心とする経営改革を行い、グループとしての企業価値を高めてきた。買収を検討する際には、製品の類似性などはこだわらず、彼らのストロングポイントであるプロセスエンジニアリングを通じて、業績を回復させる事が出来るかどうかに焦点を当てている。この活動は、プライベートエクイティにも似ている様にも感じるが、Danaher社は必ずしも売却をエグジットとしてはおらず、長期的なグループ企業としての関係を重視している。故に、同社は単にリストラを強制的に行うのではなく、カルチャーに対する教育も確り行い、グループとしての一体感も高めている。
  • Vertical Integration:垂直統合と呼ばれる買収パターンである。例えば、メーカーであれば、サプライヤーや卸売業者が買収対象先となる。要すれば、買収して自社でやった方がいいのか、もしくは、他社を買収した方がいいのかということだ。
  • Geographic Expansion:ビジネスを行う国・エリアを広く持つことで、エリア毎の景気循環のボラティリティを吸収出来る。例えば、米国の需要が落ち込んだ時には、中国では需要が伸びているかもしれないということだ。また、Geographic Expansionを進めていく上で、以下の3つが戦略立案のイシューになるという。(1)Adaptation:いかに進出先の文化、商慣習に適応し、地元企業や顧客とのリレーションを構築していくこと、(2)Aggregation:経済規模が拡大する事による生産性の向上、(3)Arbitrage:同じ商品でもエリアが違えば、需給のバランスも異なり、結果的に価格も異なってくるので、理論的にはArbitrage取引も可能となる(コモディティ関連企業中心)。